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遺産

 

遺産分割方法の指定の委託

 [相談]

 先般父が亡くなりました。相続人は、配偶者A、長男B、長女Cの3名です。

 父は、生前に自筆証書遺言を作成しており、その遺言書には「遺産分割の内容については、長男Bが決める。」と記載がありました。

 父の遺言に従うと、全て長男Bの一存で遺産分割の内容が決められてしまいますが、このような遺言は有効なのでしょうか。


[回答]

 自筆証書遺言の要件を備えていれば、遺言としては有効となりますが、今回の問題は、その内容にあります。

 この自筆証書遺言の内容は、要するに、遺産分割方法の指定を第三者に委託する趣旨のものと考えられます(後記民法第908条)。このように、遺言によって遺産分割方法の指定を第三者に委託すること自体は、民法で認められています


 しかしながら、同条の分割方法を委託する「第三者」とは、共同相続人以外の第三者であることを要する(そのような指定は無効)とする裁判例(東京高裁昭和57年3月23日)があります。この点に関しては、学説上も争いのあるところですが、同条の「第三者」という文言と、共同相続人の一部に遺産分割方法の指定を委託するのは公正が期待できないことを理由とする判断だろうと思われます。


 この判決の理解に従いますと、(遺言者の希望とはずれるかもしれまんが)今回の自筆証書遺言は、相続人のうちの1名に遺産分割方法の指定を委託するものとして、その内容(遺産分割方法の指定の委託)が無効であると考えられます。


 自筆証書遺言は、手軽に作成できる遺言書ですが、法的な検討を経ていないため、本件のように、せっかく作ったのにその内容に不備があるため効力がないということがあります。専門家と相談し、公正証書で作成されることをおすすめします。

 

【民法第908条】

 被相続人は、遺言で、遺産の分割の方法を定め、若しくはこれを定めることを第三者に委託し、又は相続開始の時から五年を超えない期間を定めて、遺産の分割を禁ずることができる。
 

 

公正証書遺言:謄本取得

公正証書遺言 謄本取得手続きは、作成した公証役場に申請します。

遺言公正証書のイラスト
★必要書類(全て還付可)
・遺言者の死亡がわかる戸籍
・依頼者(相続人)の戸籍
・依頼者の印鑑証明書
(委任による代理取得)
+委任状 書式は任意で実印押印
 
公証役場にて上記書類を提出し、申請書に記入
(代理の場合は代理人の住所氏名・認印)
 
*注意 謄本とはいえ、公証人の署名押印が必要なため、即日もらえないこともあります。
*注意 各公証役場で取扱が異なる可能性がありますので、事前に問合せをして下さい。
 

 

遺言の活用法

 最近、遺言作成についてのご相談が多くなってきています。「遺言は財産のある人がつくるもの」「遺言は死ぬ間際に考えればいい」などという考えはもう時代遅れ。もはや遺言は書いて当たり前、書かない人が珍しい、そんな時代に差し掛かってきているのです。
  
 遺言作成増加の背景は、遺産相続を巡る争いにあります。また、身内での争いは根が深くなり、感情的対立を生じるため、紛争も長期化しやすく、恐らくは一生対立が続いてしまうものです。
 
 では、なぜ争族が急増しているのでしょうか。一番の要因はジェネレーションギャップにあると考えられます。世代が若ければ若いほど(相続で貰う側)、近代個人主義の意識が強く、「家」よりも「自分」に重きをおいています。一方財産を残す側の高齢者や資産家は、戦前の旧民法における家督相続(簡単に言うと長兄が全てを貰うことです)の名残があり、「家」に対する意識が強く残っています。ですから、肝心の財産を残す方は、ウチは大丈夫、家を守ってくれるはず、と思って遺言などわざわざ書きません。そしていざ相続が開始した時には、子供達世代が個人の権利を主張し、故人の意見が反映されることは無いのです。このご時世、貰えるモノは貰っておきたいと考えるのも当然と言えば当然ですよね。

 そこで、ようやく遺言の重要性を認識し、生前に自分の死後を見通して遺言を遺される方が増えているわけです。遺言書自体が、遺された家族にとっても、無用な対立を回避し、スムーズな相続手続きを実現させる大変有難い遺産であるとすら言えます。 
 
 特に遺言を遺しておきたいというケースとしては、以下のようなものがあります。
(1)遺産が不動産しかないという場合
 これは逆に大変です。なぜなら不動産はお金のように分ける事が出来ませんから、場合によっては自らの現金を出す、ということも有り得ます(代償分割)。
 
(2)相続人に子供がいない場合
 この場合には相続人が尊属又は兄弟姉妹まで広がりますから、遺された配偶者の負担は相当なものとなります。
 
(3)経営者や個人事業主の場合
 相続によって会社や事業の承継をする必要がありますので、遺産分割はより複雑化します。特に新会社法施行により会社の機関設計も柔軟に出来るようになっていますので、会社形態の見直しと共に相続にも備える必要があります。

 遺言は自分の歩いてきた人生の締めくくりです。勿論「付言」というメッセージも遺すことができます。残された家族のために生命保険には入っていても、遺言は書いていないなどということはナンセンスです。元気なうちに、家族の将来の事を考えてみては如何でしょうか。

 なお、遺言できる事は民法に法定されており、その様式も厳格な規定があります。作成される場合にはまず、弁護士・司法書士・税理士・公証人といった専門家へご相談下さい。
相談・説明のイラスト




 

 

 

有効な遺言書の作成について

【相談】
 争いを避けるために有効な遺言書を作成したいと考えています。法的に有効な遺言書の形式や、書いておくべき内容、作成時の注意点について教えてください。

【回答】
 遺言書を作成する最大の理由は、ご自身の意思に基づき、誰にどの財産をどれだけ相続させるかを明確に指定できる点にあります。これにより、相続人同士の争いを防ぎ円滑な遺産分割を実現することが期待できます。

 有効な遺言書を作成するためには、民法で定められた厳格な方式に従う必要があります。主な方式には、自分で手書きする「自筆証書遺言」と、公証役場で公証人に作成してもらう「公正証書遺言」があります。特に公正証書遺言は、方式の不備で無効になるリスクが低く、原本が公証役場に保管されるため紛失・偽造の心配が少ないというメリットがあります。内容としては、財産目録を正確に記載し、各財産を誰に相続させるかを具体的に指定すること、また遺言執行者(遺言の内容を実現する人)を指定することなどがポイントです。


 

自筆証書遺言における財産目録の作成方法

[相談]
  自筆証書遺言を作成する際に、財産目録を使用したいと考えています。作り方に関して、気を付けるべきことはありますか。
 
[回答]
(1)財産目録の作成方法
 従前から自筆証書遺言の作成の際に財産目録(財産の一覧表)が活用されること自体はありましたが、この際自筆での作成が必要でした。しかし、平成31年の相続法改正により、手書きでの作成を求められなくなりました(改正法第968条2項前段)。
 
 その結果として、財産目録の作成にあたっては、Excelシートの活用や第三者の代筆、(不動産であれば)登記事項証明書のうち不動産の特定に要する部分をキャプチャし印刷する等の方法を活用することが可能となりました。
 
 ただし、手書きによらない財産目録を作成するにあたっては、各葉(各ページ)に署名と押印を行う必要があります(同条同項後段)。

 (2)財産目録の修正方法について
 財産目録の加除変更にあたり、通常の自筆証書遺言と同様に、修正する箇所を指示した上で、これを変更した旨の付記・署名及び修正箇所への押印が必要となります(同条3項)。
 
 また、目録自体を差し替える場合には、旧目録の全葉に斜線を引き、各葉に押印の上、「目録〇ページ全部を削除」等と付記の上、署名します。他方、新目録には上記「1.財産目録の作成方法」のとおりに各葉に署名と押印をし、加除訂正による目録であることを明示するため、新しい目録の表題を「訂正目録」等として脇に押印し、さらにその欄外に「訂正目録を追加」等と付記しその脇に署名を行うといった方法が考えられます。
 

 

認知症と公正証書遺言

[相談]
 母には法定相続人として私(長男)と弟の2人がいるのですが、最近、私や私の家族と同居している母が私に財産を残すために遺言を作成したいと言っております。
 
 ただ、他方で母は軽度ではありますが認知症を患っており、主治医からは今後も症状は進行していくだろうといわれています。母には、今のうちに上記の内容にしたがって公正証書遺言を作成してもらいたいと考えているのですが、可能でしょうか。
 
[回答]
(1)遺言能力について
 遺言者において公正証書遺言を含めて遺言を作成するにあたっては、遺言能力が必要になります(民法963条)。
 
 この遺言能力の有無は、遺言者の精神上の障害の存否・内容・程度、遺言者の年齢、遺言作成の動機や理由、相続人又は受遺者との関係といった諸般の事情が考慮されて判断されます。
 
 そのため、認知症であることをもって直ちに遺言者の遺言能力が否定されるわけではありませんが、症状の進行度によっては遺言能力がないと判断され、公正証書遺言を作成することができない可能性もあります。したがって、本件のような場合には、可能な限り早めに作成に取り掛かることをお勧めいたします。
 
(2)公正証書遺言の作成に関して
 公正証書遺言を作成する場合、作成に先立ち公証人が遺言者の遺言能力を確認しますので、通常の自筆証書遺言による場合に比べて、相続開始後における遺言の有効性に関する争いの発生を抑えることが期待できます(ただし、公正証書遺言の方法によっても遺言者の遺言能力が欠如しているとして、当該遺言が無効であると判断されたケースもあります。東京高裁平成25年3月6日判決、東京地裁平成28年8月25日判決等)。
 
 そして、公証人による遺言者の遺言能力の確認方法については、公証人によって異なりますが、口頭で遺言者の氏名・生年月日、相続人又は受遺者と遺言者の関係、これから作成する遺言の内容の概要の聞き取りを行い、これらについて遺言者自身が理解できていれば作成可能と判断することが多いように思われます。
 
 したがって、お母様におかれまして、この点をクリアできるのであれば公正証書遺言を作成できる可能性があります。
 
(3)公正証書遺言の有効性を争われるリスクに備えて
 相続人間で当該公正証書遺言の有効性について争いになる場合に備え、公正証書遺言作成当時における遺言者の医療記録の保管や公正証書遺言作成時における作成過程を動画にて撮影するといった方法により、当時の遺言者の遺言能力に問題がないことを裏付ける資料を残しておくことも、紛争の早期解決に向けて有用だと考えます。 

 


 

遺留分について

【相談】
 遺言書で特定の相続人に多くの財産を遺贈すると指定されていた場合、他の相続人が最低限相続できる権利(遺留分)はありますか? その請求方法や注意点について教えてください。

 


【回答】 

 遺言書によって特定の相続人に多くの財産が遺贈・相続された場合でも、法定相続人のうち一定の範囲の者には、法律上最低限保障された相続分の割合があり、これを遺留分といいます。

(1)遺留分が認められる人

 遺留分が認められるのは、亡くなった方の**配偶者、子(代襲相続人である孫なども含む)、および直系尊属(父母や祖父母など)**です。 一方、兄弟姉妹に遺留分は認められていません

(2)遺留分の割合

 遺留分の割合は、相続人全体の遺産の2分の1であることが原則です。ただし、相続人が直系尊属(父母や祖父母)のみの場合は、遺産全体の3分の1となります。 そして、個々の遺留分権利者が具体的にいくら請求できるか(これを遺留分侵害額といいます)は、この全体の遺留分に対し、それぞれの法定相続分を掛け合わせて計算されます。
 
 例えば、配偶者と子が相続人の場合、全体の遺留分は遺産の1/2です。配偶者の法定相続分は1/2、子の法定相続分は1/2(子が複数いればそれを頭割り)なので、配偶者の遺留分は1/2 × 1/2 = 1/4、子の遺留分は1/2 × 1/2 = 1/4(これを頭割り)となります。


(3)遺留分の請求方法(遺留分侵害額請求)

 遺留分は、遺言によって遺留分権利者の権利が侵害されていた場合に、自動的に受け取れるものではありません。遺留分を侵害された相続人が、遺留分を多く受け取った相手(受贈者や受遺者、他の相続人)に対して、金銭の支払いを請求する必要があります。これを遺留分侵害額請求といいます(201941日施行の改正法により、原則として金銭による請求となりました)。

 具体的な請求方法としては、

1.     まず、内容証明郵便など、後日証拠となる方法で相手方に対し「遺留分侵害額を請求する」という意思表示を行います。いつ意思表示を行ったかが、後述の時効に関わるため非常に重要です。

2.     相手方との間で、遺留分侵害額の計算や支払方法について話し合い(交渉)を行います。

3.     話し合いで合意できない場合は、家庭裁判所に遺留分侵害額の請求に関する調停を申し立てます。

4.     調停でも合意できない場合は、地方裁判所に遺留分侵害額請求訴訟を提起し、裁判所の判断を仰ぐことになります。


(4)請求できる期間(時効)

 遺留分侵害額請求権には、非常に厳しい行使期間の制限があります。

·        相続開始と、遺留分を侵害する贈与または遺贈があったことを知った時から1年間行使しないと、時効によって消滅します。

·        相続開始の時から10年間を経過したときも、権利は消滅します。この期間は、遺留分侵害を知っていたかどうかにかかわらず進行します。

 特に1年の時効は非常に短いため、遺留分侵害を知った場合は、迷わず速やかに弁護士に相談し、内容証明郵便などで請求の意思表示を行うことが極めて重要です。


(5)注意点

·        遺留分の計算は、相続財産だけでなく、一定期間内の生前贈与なども含めて算定する必要があるため、複雑になることが多いです。

·        不動産や非上場株式など、評価が難しい財産が含まれる場合、その評価額をめぐって争いになることがあります。

·        請求を受けた相手方に現金がない場合、遺贈された不動産などを売却して金銭を準備する必要が生じることがあります。


 遺留分に関する問題は、法的な知識だけでなく、正確な財産評価や交渉、訴訟手続きの専門知識が必要となります。遺留分侵害の可能性があると思われたら、期間に制限もありますので、できるだけ早く弁護士にご相談されることを強くお勧めいたします。

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