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【回答】
【相談】
現在、私は、夫の相続に関して家庭裁判所で遺産分割調停手続を行っているのですが、手続中に夫の書斎で「貸金庫カード」なるものを見つけました。そこで、カード記載の金融機関に確認してもらったところ、夫は私の知らないところで貸金庫を作っていたようです。もう調停も進んでいるのですが、この貸金庫はどうすればよいですか。
[回答]
(1)対応方法
新たに貸金庫を発見した場合には、速やかに家庭裁判所と他の相続人に対してその旨を報告し、調停の協議対象に含める必要があります。そして、「当該貸金庫の賃借人の地位」につき誰が取得するのかを決める必要があります。
以下では、上記の対応を怠り、貸金庫の存在を抜きにして調停が成立してしまった場合のリスクについて簡単に説明します。
(2)リスク1(他の財産の相続手続に支障が生じる可能性)
仮に遺産分割調停が成立した場合でも、上記の貸金庫の賃借人の地位についての協議が含まれていなかった場合には、別途相続人全員の合意がない限り貸金庫を開扉することはできません。
そして、金融機関によっては、貸金庫の開扉・解約を先行していなければ同機関にて管理する被相続人名義の他の財産(預金、証券等)についても相続手続に応じないとする運用をとっているところもあります。他の財産について協議が成立している場合に上記の運用をとることには疑問がありますが、他の財産の手続についても余計な手間や時間を要する可能性があります。
(3)リスク2(貸金庫に把握していない財産が入っている可能性)
仮に遺産分割調停の後に貸金庫内から新たな財産が発見された場合、当該財産の分割方法について別途協議を行う必要が生じます(ただし、先行する調停にて、「新たに発見した財産につき全て特定人に取得させる」旨の合意ができている場合は除きます)。
(4)リスク3(貸金庫に遺言書が入っている可能性)
仮に遺産分割調停の後に貸金庫内から遺言書が発見された場合、他の相続人から成立済の調停につき錯誤無効を主張される可能性があります。そして、裁判所によって当該調停につき無効だと判断された場合、遺言書の存在を前提として新たな協議をやり直す必要が生じます。
(5)中間合意の活用
以上のように、貸金庫の存在を放置することには複数のリスクが伴います。
そこで、貸金庫を発見した場合には、遺産分割調停手続に時間を要する見込みであっても、少なくとも貸金庫を開けることについてのみ先行して合意を取り付け、貸金庫の中に新たな財産や遺言書がないかどうかを確認する必要があります(このように特定の事項についてのみ先行して合意することを「中間合意」といいます)。
[相談]
私にはこれまで別居していた母がいるのですが、高齢になり一人で生活させるのが不安になったため、先日から我が家で同居してもらうことになりました。
今後の母の通院費や生活費は、母の承諾を得て母の預金から工面することを考えております。母の相続を見越して気を付けておくべきことはありますか。なお、父はすでに亡くなっており、母の法定相続人には私(長男)と弟と妹の3人がおります。
[回答]
弟や妹との関係次第ですが、お母様の相続開始後、お母様の預金口座からの払戻金の使途が明らかでない場合には、弟や妹から相談者様による使い込みを疑われる可能性があります。この場合、弟や妹から相談者様に対して使い込みを疑われている金額について支払うよう、訴訟にて争われることがあります。
そして、仮に訴訟となった場合には、使途が正当であること(=お母様の承諾を得て、お母様のために使用していたこと)を相談者様の側で立証することが求められますので、相談者様においては、今のうちから払戻金の使途について都度記録を残しておくとよいでしょう。
立証の面から見た使途の記録のベストな方法は、お母様のために要した費用に関するすべての資料を整理・保管しておくことになりますが、長年にわたる生活費の資料は膨大になり得ますし、また、領収書が残らないような出費(例えば孫へのお年玉等)もあり得ることから、そのような方法を採ることは実際には困難だと思われます。
そこで、可能な限りでの資料の整理・保管を行い、それと合わせて年に1回程度、預金口座からの払戻金についての支出明細書を作成し、これを他の相続人に報告・送付するといった対応を採ることがベターな手段だと思われます。
また、相続開始後における紛争を回避するためには、相談者様において日頃から弟や妹との関係を良好に保っておくことが肝要であり、そのためにも上記の報告等によって、相談者様によるお母様の介護について弟や妹からの信用を得ておくことが望ましいといえます。
数年前に私の妻が亡くなったことから法定相続人である妻の兄弟と遺産分割協議を行う必要が生じ、この相続人らとの遺産分割協議を試みました。しかし、協議がまとまらなかったため、現在は家庭裁判所において遺産分割調停手続を行っています。
法定相続分に則り私が大半の相続財産を取得する予定だったので、本調停手続に先立ち、手続の最後に清算をすることを約束した上で私が全員分の相続税を立て替えて納付しています。この際、相続人全員から了承も取っていました。
その後、調停手続が進んでいく間に次第に当初の相続人が亡くなり、当初の相続人のそのまた相続人が本調停手続の当事者となっていきました。
しかし、新しく相続人になった者の多くは、相続税の立替払いについて自身で約束したものではないから清算には応じないと主張してきています。
本調停手続あるいはその後の審判にて、私の立て替えた相続税については清算してもらえないのでしょうか。
[回答]
遺産分割調停手続はあくまでも相続財産の分割について協議する手続になりますので、相続財産に含まれない相続税の立替金の問題は、本来調停手続での協議の対象には含まれません。したがって、調停手続の当事者同士で納得していれば、相続税の清算について取り決めることは可能ですが、反対する者がいる場合においてこの者を含めて清算の取り決めを行うことはできません。
仮に立替金の清算を求めるのであれば、本調停手続とは別に訴訟等の債権回収手段をとる必要があります(きちんと立替時の資料を保管していれば請求自体は認められるものとは考えますが、納付した金額自体が少ない場合には時間面・費用面のコストを踏まえて回収に乗り出すかどうか自体を検討しなければならない事案もあります。)。
また、本調停手続において質問者様から当該相手方に代償金を支払う内容での協議が成立しているのであれば、上記代償金の支払債務との間で相殺を行うことも考えられます。
本件では質問者様は良かれと思い相続税を立て替えたものと思われますが、調停手続や審判の場では共同相続人と対立することもありますので、上記のような状況は往々にして起こり得ます。そのため、対立が見込まれる相続においては、相続税の納付に関しましても各相続人にて行ってもらう方向で進めた方がトラブルの回避のためには望ましいといえます。