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相続法の改正

 

相続債務

[質問]


「法」と書かれた本のイラスト
 相続法の改正(平成30年法律第72号)により、相続債務の取り扱いには何か影響があるのでしょうか?


【回答】
(1)相続分の指定による影響
@ 現行法第902条1項(本項の改正はありません)
 「被相続人は、・・遺言で、共同相続人の相続分を定め・・ることができる。」

A 改正法第902条の2
 「被相続人が相続開始の時において有した債務の債権者は、前条の規定による相続分の指定がされた場合であっても、各共同相続人に対し、第九百条及び第九百一条の規定により算定した相続分(=法定相続分)に応じてその権利を行使することができる。ただし、その債権者が共同相続人の一人に対してその指定された相続分に応じた債務の承継を承認したときは、この限りでない。」(カッコ内は筆者が記載)
 改正法により新設されました。
 現行法第899条には、「各共同相続人は、その相続分に応じて被相続人の権利義務を承継する。」と規定されていますところ、この「その相続分」には、法定相続分と指定相続分が含まれると解釈されています。従って、遺言で相続分を多く指定された相続人は、その分多くの債務を負担することになります。本条但書により、債権者は、法定相続分に従った共同相続人全員からの債務の履行か、指定相続分を前提とした債務の履行かを、選択することができます。
 
(2)遺産分割、調停・審判による影響
 この点は改正法でも触れられていませんが、共同相続人が、どのように遺産を分割しても、あるいは調停・審判で、遺産がどのように分割されても債権者への影響はなく、債権者は、共同相続人に対し、法定相続分に従った債務の履行を請求することができますし(条文の根拠はなく解釈です)、上記現行法第899条により、その相続した分に応じた債務の履行の請求も可能とされています。
 
(3)共同相続人間の内部関係
 この点は相続法の改正とは直接には関係ありませんが、上記(1)、(2)は、対相続人の債権者との関係であり、共同相続人間の内部では、遺言が残されている場合は、その内容により全てが律せられます。例えば、1人の相続人に全ての遺産を相続させる旨の遺言が残されている場合、全ての相続債務も当該受益相続人が負担します。仮に債権者が、他の相続人に対し、その法定相続分に従った債務の履行を請求し、当該他の相続人がこれに応じた場合、共同相続人間の内部関係としましては、他の相続人から受益相続人に対する「求償」の問題として解決されることになります(最高裁平成21年3月24日判決。最高裁判例解説平成21年度(上)P.225〜)。

 

特別寄与料

[質問]
 相続法の改正(平成30年法律第72号)で、相続人ではない人へも何らかの財産の分配がなされる可能性があると聞きましたが、どのような制度でしょうか?

[回答]
――特別の寄与 改正法第1050条 (以は、条文の正確な引用ではありません)――
(1)被相続人に対して無償で療養看護その他の労務の提供をしたことにより、被相続人の財産の維持又は増加について特別の寄与をした被相続人の親族(相続人、相続放棄者、相続欠格者、被排除者を除く)(以下「特別寄与者」といいます)は、相続の開始後、相続人に対し、特別寄与者の寄与に応じた額の金銭(以下「特別寄与料」と表示)の支払を請求することができる。
 
(2)前項の特別寄与料の支払いについて、当事者間に協議が調わないとき・・・は、特別寄与者は、家庭裁判所に対して協議に代わる処分を請求することができる。ただし、特別寄与者が、相続の開始及び相続人を知った時から6ヶ月を経過したとき、又は相続開始の時から1年を経過したときは、この限りでない。
 前項本文の場合には、家庭裁判所は、寄与の時期、方法及び程度、相続財産の額その他一切の事情を考慮して、特別寄与料の額を定める。

(4)特別寄与料の額は、被相続人が相続開始の時において有した財産の価額から、遺贈の価額を控除した残額を超えることができない。

(5)相続人が数人ある場合には、各相続人は、特別寄与料の額に、法定相続分を乗じた額を負担する。
 
 改正法により新設されました。本条は、主として、被相続人の療養看護や介護に努めた、子(相続人)の配偶者などを救済するための規定です。なお、「相続人」の寄与分に関する現行法第904条の2に改正はなく、現行法どおりです。

 

 

自筆証書遺言の方式緩和と保管制度

[相談]
 相続法の改正(平成30年法律第72号)で、自筆証書遺言の制度はどう変わったのでしょうか?


遺書を書いている人のイラスト(男性)
 
 




[回答]
(1)自筆証書遺言の方式緩和
@ 現行法第968条1項(本項の改正はありません)
「自筆証書によって遺言をするには、遺言者が、その全文、日付及び氏名を自書し、これに印を押さなければならない。」
 
A 改正法同条2項
「前項の規定にかかわらず、自筆証書にこれと一体ものとして相続財産・・・の全部又は一部の目録を添付する場合には、その目録については、自書することを要しない。この場合において、遺言者は、その目録の毎葉(自書によらない記載がその両面にある場合にあっては、その両面)に署名し、印を押さなければならない。」
 
 改正法により新設されました。
 相続財産の目録については、自書によらなくてもよいとの規定で、その内容は、上記条文の規定どおりです。
 
(2)自筆証書遺言の保管制度
@ 法務局において、自筆証書遺言を預かり保管する制度で、別途特別法「法務局における遺言書の保管等に関する法律」(本則全18条と附則で構成)(以下「遺言書保管法」といいます)を制定し実施します。
 
A 遺言書保管法の概要は、以下のとおりです。
@ 遺言書保管法は、法務局において、自筆証書遺言を預かり保管する制度を定める(第1条)。
 
A(手数料)
 遺言書の保管には、政令で定める額の手数料を納付しなければならない(納付は収入印紙)(第12条)。
 
B(保管の申請)
 保管を申請する遺言書は、法務省令で定める様式に従って作成した無封のものでなければならず、又申請する遺言者は、遺言書保管所(法務大臣の指定する法務局−第2条1項)に自ら出頭してしなければならない(第4条)。
 
C(遺言書の保管等)
 遺言書(原本)の保管は、遺言書保管所の施設内にて行う(第6条)。
 
D(情報の管理)
 遺言書に係る情報の管理は、磁気デスクをもって調整する遺言書保管ファイルに、次に掲げる事項を記録してする(第7条)。
1 遺言書の画像情報
2 遺言書に記載されている作成年月日、遺言者の氏名・生年月日・住所及び本籍、受遺者・指定された遺言執行者の記載があるときは、その氏名・名称及び住所
3 遺言書保管の開始年月日
4 遺言書が保管されている遺言書保管所の名称及び保管番号
 
E(保管の申請の撤回)
 遺言者は、遺言の保管の申請を、遺言書保管所に自ら出頭していつでも撤回することができ、この場合遺言書保管官(第3条1項)は、遺言書(原本)を返還し、第7条の記録を消去する(第8条)。
 
F(遺言書の検認の適用除外) 
 民法第1004条1項(検認)の規定は、遺言書保管所に保管されている遺言書には適用しない(第11条)。
 
Gその他、遺言書の閲覧、遺言書保管ファイルの記録事項の証明書面の交付等の手続等が規定されています。

 

 

特別寄与料の制度について

[相談]
 先日、義理の母が亡くなりました。私は、だいぶ前に夫を亡くしていますが、夫の存命中から夫の母と住んでいましたので、夫の死後も夫の母の世話をしており、亡くなる前の10年程は介護をしていました。
 夫の父は既に死亡しており、義理の母の相続人は、夫の妹だけです。離れて住んでいたので仕方ないかもしれませんが、夫の妹は母の介護を私に任せきりにしていました。夫の妹が、母の遺産を全て相続することになると思いますが、あまりに不公平な気がしています。私が義理の母の遺産を少しでも分けてもらう方法はないでしょうか。
 
[回答]
 本件では、夫の妻は、亡くなった義理の母の相続人である夫の妹に対し、特別寄与料の支払いを請求することが考えられます。
 
(1)特別寄与料の制度
 特別寄与料の制度とは、相続人以外の親族が、亡くなった方(被相続人)に対して、無償で療養看護その他の労務の提供をしたことにより、被相続人の財産の維持または増加について特別の寄与をしたときに、相続人に対し、寄与に応じた額の金銭(特別寄与料)の支払いを請求することができる制度(民法1050条)です。
 
 相続人が、遺産分割手続の中で、特別の寄与(寄与分)を主張することは従前より可能でしたが(同法904条の2@)、令和元年7月1日施行の民法改正により、相続人以外のものからの同様の請求を認めたのが本制度であり、令和元年7月1日以降に、被相続人が死亡したケースにおいて請求することができます。
 
(2)趣旨及び要件
 特別寄与料の制度趣旨は、被相続人の推定的意思や関係者間の実質的公平を図る点にあるとされており、特別寄与料の請求が認められるには、
 @「無償で」労務提供をしたこと、
 A療養看護その他の労務提供により、被相続人の財産の維持又は増加について「特別の寄与」をしたことが必要とされています。
 
 従前の寄与分における特別の寄与が認められるためには、相続人が扶養義務を負っていることに鑑み、身分関係に基づいて通常期待される程度の貢献(通常の寄与)を超える高度なものが要求されるのに対し、特別寄与料における特別の寄与は、通常の寄与との対比ではなく、貢献の程度が一定程度を超えることを要求する趣旨であると考えられています。
 
(3)請求の方法
 特別寄与料の支払いについては、原則として、当事者間の協議によることが予定されていますが、その協議が調わない場合または協議をすることができない場合には、特別寄与者は家庭裁判所に特別寄与料の調停、審判を求めることができます(同法1050条2項本文、調停前置とされている)。この場合、必ずしも相続人全員を相手方とする必要はなく、各相続人に対し、法定相続分又は遺言により相続分の指定がある場合には指定相続分に従った金額を請求することができます(同条5項)。
 
 また、基本となる被相続人の遺産分割の調停・審判事件が家庭裁判所に係属している場合は、併合されることが多くなるのではといわれています(必要的併合ではない)。
 
(4)期間制限
 もっとも、特別寄与料の制度の創設により、相続をめぐる紛争が長期化、複雑化することが懸念されることから、請求権者は親族に限定されるとともに(事実婚や同性のパートナーは対象外)、特別寄与者が「相続の開始及び相続人を知った時から6か月を経過したとき、又は相続開始の時から1年を経過したとき」は、特別寄与料の請求はできないとされていることに注意が必要です(同条2項但書)。
 
(5)特別寄与料の制度が活きるケース
 例えば、相続人の配偶者や子の寄与が問題となるケースでは、従前から、これらの者を「相続人の補助者」とみて、「相続人の寄与分」の主張の中で考慮することが認められていました。特別寄与料の制度の創設により、「相続人の補助者」構成による請求が排除されるものではないと考えると、これらの者は、特別寄与料の請求としてではなく、従前の枠組み(寄与分)の中で請求することも可能であると考えられます。
 
 一方で、本件のように、相続人死亡後もその配偶者が義父母の面倒を看ていたケース等や、相続人の配偶者や子以外の親族が被相続人の療養介護にあたっていたケースでは、特別寄与者は、従前の寄与分の制度では保護されませんでした。特別寄与料の制度は、そのような特別寄与者の不公平感を解消するものとして活用されることが期待されています。

 

 

預金債権の仮分割仮処分

[相談]
 夫が亡くなったため、相続人である私と多数の夫の兄弟姉妹たちとの間で半年ほど遺産分割協議を続けていたのですが、どうしても折り合いがつかないことから、この度遺産分割調停を申し立てることになりました。
 
 また、我が家の生活費はすべて夫の預金口座で管理していたのですが、この預金口座は夫が亡くなったことで凍結されてしまいました。そのため、現在は預貯金の仮払い制度を利用して、夫が亡くなった直後に払い戻した150万円を取り崩しながら生活しています。
 
 ただ、肝心の遺産分割調停については、解決の目途が立っておらず、今後調停が半年も1年も続くような場合には到底生活していくことができません。何とか当面の生活費を確保する方法はないでしょうか。
 
[回答]
 本件のようなケースでは、「預金債権の仮分割の仮処分」の制度を利用することを検討することが考えられます。以下で本制度について、概略を説明させていただきます。
 
(1)預金債権の仮分割の仮処分について
 令和元年の相続法改正により「預貯金債権の仮分割の仮処分」に関する制度が新設されました(家事事件手続法第200条3項)。
 
 本制度は、「預貯金債権は遺産分割の対象となる」と判示した平成28年決定により、預貯金債権が遺産分割までの間は共同相続人全員の共同でなければ行使できなくなったため、例えば被相続人の扶養内にあった相続人において、被相続人にまつわる債務の弁済あるいは生活費の支出の必要があるにもかかわらず、共同相続人の一人でも協議に同意しないために払い戻しを受けることができないといった不都合を是正する目的で制定された背景があります(※1)。
 
 なお、金融機関ごとに法定相続分の3分の1あるいは150万円のいずれか低い方の金額を上限に払戻しを認める預貯金の仮払い制度(民法第909条の2)とは異なり、本制度では家庭裁判所に対して当該仮処分を求める旨の申立てを行い、裁判所から仮分割を認める決定を取得する必要があります。
 
(2)要件
@本案が係属していること
 本制度の利用にあたっては、当該預金債権が分割対象となっている遺産分割調停事件もしくは、遺産分割審判事件が家庭裁判所の事件として係属している必要があります。
 
A権利行使の必要性
 
 本制度の利用により預貯金の払い戻す必要性が認められる必要があります。典型例としては、生活費の支払いや施設利用料の支払いを行わなければならない場合が挙げられます。
 
B他の共同相続人の利益を害しないこと
 
 どの程度であれば、他の共同相続人の利益を害しないかについて明確な基準は決められておりませんが、一つの考え方として、仮分割を求める金額が当該預貯金債権額に自身の法定相続分を乗じた金額を上回らないこと(すなわち、請求額が自身の法定相続分に応じた金額を超えないこと)が挙げられます。

(3)手続および想定される効力
 本制度では、仮処分の可否を決定する前に、相手方である他の相続人に意見の陳述の機会が与えられ、裁判所はこの陳述を聴取しなければなりません(家事事件手続法第107条)。
 
 陳述の方法には、相手方が実際に裁判所に出廷して意見を述べる方法と裁判所から送付された書面に意見を回答する方法があり、いずれかの方法を経た後に裁判所が仮処分の可否を判断することになります。
 
 仮に、仮処分が認められた場合の取得額は、本件のように生活費の確保を目的として本制度を利用した場合には、月々の生活費に本案について見込まれる審理期間(数ヶ月〜1年程度)を乗じた金額になるものと思われます(※2)。
 
(※1)「中間試案後に追加された民法(相続関係)等の改正に関する試案(追加試案)の補足説明」(平成29年7月18日)
(※2)片岡武・管野眞一「改正相続法と家庭裁判所の実務」(日本加除出版株式会社)93頁-106頁


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