1.相続を承認して積極財産も消極財産も引き受ける(単純承認)
2.被相続人の財産の範囲で債務を返済する(限定承認)
3.積極・消極財産共に引き受けない(相続放棄)
普通は皆さん単純承認しています。「そんな事したっけ?」と思う方もいるでしょうが、あえて承認すると言っていないだけで、当然に財産を引き継いでいるため、承認したとみなされているのです。
最近、相続放棄に関する相談が増えています。
よく勘違いされる方がいらっしゃいますが、遺産分割協議で「何もいらない(放棄する)」と言っているのは厳密な意味での相続放棄ではありません。これは単にそのような内容で遺産分割するというだけのことです。相続放棄をするには相続開始を知ってから3ヶ月以内に家庭裁判所に対して申立をしなければなりません。相続放棄をするとその方はそもそも相続人ではなくなるので、分割協議にも参加できません。また、限定承認は相続人全員共同して行う必要があり、手続きも長期煩雑なため、あまり利用されていません。
一般的に相続放棄とは、相続財産よりも明らかに負債が多い場合に選択されていましたが、最近は少し変化があるように思います。
例えば、明らかな債務超過ではないが、消費者金融から借入が発覚したため、他にも負債を抱えていたのではないかという不安から相続放棄を選択している場合などです。
なぜこのような変化が起こったのでしょうか。それは恐らく社会の個人化が進んでいったからではないでしょうか。昔は家族親戚がどのような生活をしていたかはお互いに大体把握できました。しかし現在では、家族であっても互いに全てを知っているわけではないのです。簡単にお金が借りられることもまた大きな要因の1つでしょう。
相続放棄をすると当然に被相続人の債務は返済する必要がなくなります。しかし、ここで注意しなければならないのが、法定単純承認という規定です。これは相続を承認したとみなされる行為をした場合、もはや相続放棄の効果が失われる可能性があるというものです(民法921条)。簡単に言うと、放棄したにも関わらず相続財産を自ら処分・取得したりする場合です(同条3号)。当たり前だとお思いでしょうが、実際この判断は難しいものです。故人の所有していた物を全てそのままにしておくのは不可能に近いでしょう。ではどのような場合には処分行為にあたらないのでしょうか。判例で認められている事例を挙げてみましょう。
・形見分け(時計・衣服・家具等一般的経済価値の無い物に限る)
・布団や衣類等の焼却処分
・当然に営むべき程度の葬儀費用等の支出
・相続財産の無償貸与
しかし上記の行為も、個別具体的な相続ごとに相続財産の総額に占める割合や被相続人及び相続人の生活状況・財産状況等を総合的に考慮して判断する必要があります。
実際に相続について不安があった場合には、早めに専門家に相談されることをお薦めします。
ご自身も万一の時に遺された家族が困らないように生前から財産状況を把握し遺言や財産目録を作成されておかれてはいかがでしょうか。

熟慮期間後に借金が分かった場合、相続放棄できるか
[相談]
隣町の町役場から納税義務承継通知書が届きました。内容を確認したところ、20年来没交渉であった父が亡くなったとのことです。
法定相続人は母と子である私と妹の3名になりますが、母と妹も私同様、この20年間父とは一切関わりはありません。通知書に記載のある金額については母が支払ったものの、その他の父の財産については何も分かりませんでしたので、相続に関し、特にそれ以上の対応は行いませんでした。
ところが、3ヶ月ほど経過した後、消費者金融から父が借り入れたとする計300万円の支払督促が届きました。どうやら、父は行方をくらました後に借金を作っていたようです。とてもではないですが払える金額ではないので、相続人全員で相続放棄をしたいと考えています。果たして可能でしょうか。
[回答]
相続放棄に関して、民法第915条1項は「自己のために相続の開始があったことを知った時から三箇月以内に、……放棄しなければならない。」と期限を定めています。そのため、相続の開始を知ったとき(=納税義務承継通知書を受領した時点)からすでに3ヶ月の熟慮期間が経過しているご質問のケースでは、原則として相続放棄を行うことはできないようにも思われます。
もっとも判例は、相続人が負の相続財産である被相続人の保証債務の存在につき、相続の開始を知ってから1年後に認識するに至ったという事案において、相続放棄をしなかったのが、相続財産が全く存在しないと信じたためであり、かつ、このように信じるにあたり相当な理由がある場合には、当該保証債務の存在を認識した時または通常認識し得た時を相続放棄の熟慮期間の起算点とすることを認めています(最判昭和59年4月27日民集38巻6号698頁)。
この点、ご質問のケースは、相続財産が全く存在しないと信じていたのではなく、そもそも被相続人にいかなる財産があったのかを認識していなかったのであり、上記の判例とは事情を異にしています。しかし、相続人に対し相続財産の内容を把握した上で放棄すべきか否か判断する機会を与えるのが判例の趣旨だとすれば、今回のケースにおいても、貸金債務の存在を認識した時点からの起算が認められる可能性はあるといえます。
したがって、相談者様の相続放棄についても認められる可能性があります。
ただ、相続放棄にあたっては、相続の発生を知ってから3ヶ月以内に申述するのが原則的なルールとなりますので、例外的に3ヶ月経過後の相続放棄を認めてもらうためには、申述書において、(1)いつ相続の開始を知ったのか、(2)どのような理由によって3ヶ月以内での相続放棄ができなかったのか、言葉を尽くして説明する必要があります。
なお、相談者様のお母様は被相続人の税金を支払っていますが、お母様がご自身の財産でこれを支払う分には、法定単純承認事由としての「処分行為」(民法第921条1号本文)にあたらないため、相続放棄ができなくなるものではないと考えます。
