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平成21年03月24日判決(判例時報2041・45) 重要度 ◎
参照条文:民法899 条 902 条 908 条
―判例の要旨―
相続人のうちの1人に対して、相続財産の全部を相続させる旨の遺言がなされた場合、特段の事情のない限り、当該相続人に債務も全て相続させる意思が表示されたものと解すべきである。
― 解 説 ―
1 相続において、「相続財産」とか「遺産」などと表示された場合に、それに債務(マイナスの財産)が含まれるか否かは必ずしも明確ではなく、従って、たとえ「相続財産の全部」と表示されていても、それに債務が含まれるか否かは別途検討を要します。
2 民法899 条には、「各共同相続人は、その相続分に応じて被相続人の権利義務を承継する」と規定されていますので、各相続人は、プラスの財産ばかりではなく、債務もその相続分に応じて承継する(=相続する)ことになります。
3 この「相続分」は、通常は法定相続分(民法900 条)によりますが、遺言で法定相続分と異なる相続分を指定することもできます(民法902 条1項)。遺言で法定相続分と異なる相続分を指定された相続人は、その指定された相続分に応じて、債務も相続することになります。
4 本件は、相続させる趣旨の遺言で、1人の相続人に相続財産全部を相続させるとした事案で、その「相続分」は相続財産全部ですから100 %ということになります。そうして債務も、その相続分に応じて相続しますので(民法899 条)、債務も100 %、即ち債務の全てを相続することになります。
5 遺言により法定相続分と異なる相続分が指定されますと、相続人は、法定相続分と異なる額の債務を相続しますが、それは、その債務の債権者の同意を得ている訳ではありませんので、債権者に対してはそれを主張できません。
ところで、金銭債務は可分債務(民法427 条)のため、債権者から見れば、各相続人は法定相続分に応じて債務を相続したことになりますので、債権者から請求されれば、各相続人は法定相続分に応じた債務額を返済せざるを得ません。返済した相続人は、その返済額を、遺言で債務を相続した相続人に、その相続割合に応じて求償することになります(同判時P.48)。