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平成17年09月08日判決(判例時報1913・62) 重要度 ◎
参照条文:民法896 条 427 条 909 条
―判例の要旨―
1 数人の相続人が賃貸中の不動産を相続した場合、相続の開始後から遺産の分割までの間の賃料は、相続財産ではない。
2 当該不動産を相続した共同相続人が取得する賃料債権は可分債権であり、従って、その賃料は、共同相続人の相続分どおりに当然に分割され、共同相続人のそれぞれが確定的に取得する。
― 解 説 ―
1 本件は、相続の開始後から遺産が分割されるまでの間の賃料に関するものです。相続財産とは、相続開始の時点で被相続人が所有していた財産で(民法896 条)、相続開始後に取得される賃料は相続財産ではなく、分割協議の対象とはなりません。
又賃貸中の不動産を相続した共同相続人が取得する賃料債権は可分債権ですので、その賃料は、共同相続人の相続分どおりに当然に分割され、共同相続人のそれぞれが、分割された賃料を取得することになります(相続財産ではない賃料が、法定相続分どおりに分割されますのは、賃料を生じる賃貸中の不動産が共有であり、その持分割合が法定相続分どおりだからです−なお、遺言で指定相続分が定められている場合は、その指定相続分どおりとなります)。
2 家庭裁判所の遺産分割の調停の実務では、往々にして、相続開始後の賃料も分割の対象とされる場合がありますが、それは、共同相続人の全員が分割することに同意したことを根拠とするものです(共同相続人の1人でもが反対すれば、相続開始後の賃料は、分割の対象とすることはできません)。
3 民法909 条本文には、「遺産の分割は、相続開始の時にさかのぼってその効力を生ずる。」と規定されています。そのため、後の遺産分割で当該不動産を取得した相続人が、遺産分割後に、遡って相続開始後の賃料を取得するかのようにも思えますが、相続開始後の賃料は相続財産ではありませんので、そのようなことにはなりません。
なお、遺産分割後の賃料は、当該不動産を取得した相続人が取得しますが、遺産分割後の賃料も勿論相続財産ではなく、当該不動産の所有権に基づき「法定果実」(民法88条2項)として取得するものです。
(同趣旨判例)
最高裁昭和54年02月22日判決(判例時報923 ・77)
共同相続人が、全員の合意で、遺産分割前に相続財産中の特定の不動産を第三者に売却した場合におけるその売却代金につき、「売却にかかる不動産は分割の対象から逸出し、その売却代金は相続財産ではなく、共同相続人がその持分に応じてそれぞれに分割取得する」としたもの。