弁護士法人名南総合法律事務所 札幌事務所 ☎ 011-261-8882 ![]() |
平成25年09月04日決定(判例時報2197・10) 重要度◎
参照条文:民法900条 憲法14条
―判例の要旨―
1 民法900条4号ただし書前段の規定は、遅くとも平成13年7月当時において、憲法14条1項に違反していた。
2 民法900条4号ただし書前段の規程が遅くとも平成13年7月当時において、憲法14条1項に違反していたとする最高裁判所の判断は、上記当時から同判断時までの間に開始された相続について、同号ただし書前段の規定を前提としてされた遺産分割の審判その他の裁判、遺産の分割の協議その他の合意等により確定的なものとなった法律関係に影響を及ぼすものではない。
― 解 説 ―
1 民法の規定を違憲であると判断し、その後の平成25年12月民法改正の契機となった重要な判例です。
嫡出でない子とは、法律上の婚姻関係にない男女の間に生まれた子のことをいいます。改正前の民法900条4号は次のように規定されていました。
「子、直系尊属又は兄弟姉妹が数人あるときは、各自の相続分は等しいものとする。ただし、嫡出でない子の相続分は、嫡出である子の相続分の二分の一とし、父母の一方のみを同じくする兄弟姉妹の相続分は、父母の双方を同じくする兄弟姉妹の相続分の二分の一とする。」
この規定の目的は法律婚という制度の保護にありましたが、このような区別は、法律婚の選択とは無関係で、出自を選ぶことができない子に制裁を与えるもので、憲法14条に定める「平等」の概念に反するのではないかと長年議論がなされてきました。
そのような中、本件判例において、最高裁判所は、社会情勢の変化等により、嫡出でない子と嫡出子の法定相続分に区別を設ける合理的理由は無くなるに至ったと判断し、このような区別を違憲であると判断しました。
2 もっとも、最高裁が違憲と判断しているのは、平成13年7月以降の相続への適用についてです。それには、二つの理由があると考えられます。一つは、最高裁は、個々の法令の憲法適合性を審査する権限は持たず、具体的な事件の解決に必要な限りで審査権限を持つためです。本件の相続開始時は、平成13年7月でした。
また、最高裁は、従前、改正前の民法900条4号を合憲であると判断していました。そして、それらの判断のうち、最も新しい事件の相続開始時が平成12年9月であったので、この判断との整合性もとる必要がありました。
3 このように最高裁は、平成13年7月以降に生じた相続について、改正前の民法900条4号ただし書前段を適用することは違憲であると判断したわけですが、平成13年7月以降に生じた相続であっても、審判その他の裁判や協議その他の合意等により確定的なのものとなった法律関係には影響を及ぼすものではないと判断しています。
これは、法律が違憲であることよりも、既に確定した過去の法律関係の上には、現在に至るまで様々な法律関係が積み重なっていることに着目し、法的安定性を害さないことを優先した判断であるといえます。
4 冒頭でも触れましたが、本件判例の違憲判断を受けて、平成25年12月に民法が改正されました。
改正後の民法では、嫡出でない子と嫡出子との区別に関する部分(前掲民法900条4号の下線部分)を全て削除しましたので、両者の法定相続分は同じ割合となりました。なお、改正に際する経過措置として、同改正は平成25年9月5日以降に開始した相続に適用されるとしています。