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平成21年01月22日判決(判例時報2034・29) 重要度 ◎
参照条文:民法898 条 645 条 252 条
―判例の要旨―
1 金融機関は、預金者の求めに応じて、被相続人の預金口座の取引経過を開示すべき義務を負う。
2 預金者の共同相続人の1人は、単独で、被相続人の預金口座の取引経過の開示を請求することができる。
― 解 説 ―
1 金融実務上未解決の問題とされていた、共同相続をめぐる被相続人の預金口座の取引経過開示請求につき、最高裁として初めての判断(同判時P.31)です。
2 最高裁は、開示義務の根拠を預金契約自体に求め(預金契約の内容は委任ないし準委任契約と同様であり、金融機関は預金者に報告義務がある−民法645 条)、又開示請求については、まず共同相続人が、被相続人から相続した「預金契約者としての地位」を全員で共有しているものと捉え(所有権以外の財産権の共有−民法264 条)、開示請求を、共有する権利の保存行為(民法252 条但書−保存行為は、各共有者が1人ですることができる)に該当するものとして単独請求を認めたものです。
3 これにより、被相続人の口座の中味の開示請求を、他の共同相続人に協力を求めることなく単独でできることとなり、相続財産の内容の解明が随分楽になります。
平成29年01月31日判決 重要度 ○
参照条文:民法802条 相続税法15条 63条
―判例の要旨―
専ら相続税の節税のために養子縁組をする場合であっても、直ちに当該養子縁組について、民法802条1号にいう「当事者間に縁組をする意思がないとき」に当たるとすることはできない(従って、当該養子縁組は有効)。
― 解 説 ―
1 本件事案の概要
本件は、被相続人Aが、生前その長男の子Yと養子縁組をしたところ、Aの相続開始後、Aの長女X1、X2が、A・Y間の養子縁組は、Aの縁組意思及び届出意思に基づかないものであるとして、無効確認を求めた事案です。Aには、縁組の届出をする半月程前に、上記長男とともに訪れた税理士から、養子縁組の節税メリット等について説明を受けた事実が認められています。
2 本件に関する判決の変遷
(1)一審東京家裁、平成27、09、16判決
Aには、縁組意思があったものと推定され、又届出意思も認められるとして、養子縁組は有効と判断。
(2)二審東京高裁、平成28、02、03判決
本件養子縁組は、専ら、税理士が勧めたA死亡の場合の相続税対策を中心としたAの相続人の利益のためになされたものにすぎず、Aや代諾権者である長男夫婦において、Aの生前にAとYとの間の親子関係を真実創設する意思を有していなかったことは明らかであるとして、養子縁組は無効と判断。
(3)本件最高裁判決
前掲判例の要旨に記載の判断により、養子縁組は有効と判断。
3 縁組をする意思について。
(1)養子縁組が、@養子となる者に対し遺産を相続させるため、あるいは、A相続人を増加させ節税効果を図るためなどの理由でなされた場合、その有効・無効が問題となり得ますが、民法には、次の規定が置かれていて、最大の問題点は、1号の「縁組をする意思」の有無です。
(縁組の無効)
第802条 縁組は、次に掲げる場合に限り、無効とする。
一 人違いその他の事由によって、当事者間に縁組をする意思がないとき。
二 当事者が、縁組の届出をしないとき。ただし、・・以下省略・・
(2)ところが、「縁組意思」がどのような内容なのか民法には規定がなく、そのため判例から探るしかありませんが、最高裁の初期の判例では、次のように判断されています(最高裁昭和23年12月23日判決)。
縁組意思とは、「真に養親子関係の設定を欲する効果意思」をいうもので、「たとい養子縁組の届出自体については当事者間に意思の一致があったとしても、それは単に他の目的を達するための便法として仮託されたに過ぎずして真に養親子関係の設定を欲する効果意思がなかった場合においては、養子縁組は効力を生じないのである。」
(3)それでは、養子縁組が前記(1)の@、Aの目的でなされた場合、どう判断されるでしょうか。前掲「判決の変遷」に見られる逆転判決にありますとおり、それは難しい判断ですが、最高裁は、その点を上手に解決しました。
それは、上記(1)の@、Aを「目的」とは捉えず、養子縁組の「動機」と置き換え、次のように判断し、「動機」+「縁組意思」の併存を認めました。「相続税の節税のために養子縁組をすることは、このような節税効果を発生させることを動機として養子縁組をするものにほかならず、相続税の節税の動機と縁組をする意思とは、併存し得るものである。」 このような捉え方をすれば、おそらくは、どのような目的での養子縁組も、縁組意思の併存は認められることになるのではないでしょうか。
4 節税効果について
最後に節税効果について述べますと、相続人の数が増加すれば、相続税法第15条により「遺産に係る基礎控除額」が増加するなど節税に繋がりますが、一方で同法第63条には、税務署長による「相続人の数に算入される養子の数の否認」の規定があり、必ずしも常に節税の効果が生じるとは限りませんので、ご注意下さい。